定年を迎え、静かな日々がはじまりました。
長年、小学校で教壇に立っていた私にとって、時間があるというのはありがたくも、少し手持ち無沙汰なものでした。
「そろそろ、孫のお迎え頼まれてもおかしくないわね」
娘がそんなことを言ったとき、私は一瞬、黙り込んでしまいました。
——運転、もうできないわ。
免許は40代で取りました。
当時は通勤用にと必要に迫られて、苦手なりに頑張って乗っていました。
でも、退職してからは車に乗る必要もなくなり、気づけば5年以上のブランク。
自宅の駐車場には、今も夫の車がありますが、私は一度も触っていません。
60代にもなれば、視力も反応も落ちているのは実感しています。
「今さら練習しても、どうせ無理」
そう決めつけていたのは、自分自身でした。
でも、娘の言葉をきっかけに、ふと「もう一度くらい、やってみようかしら」と思ったんです。
誰かのために、もう少しだけ頑張ってみたい。
そんな気持ちが芽生えたのは、私自身にとっても意外なことでした。
インターネットで調べてみると、パンダドライビングレッスンという文字が目に入りました。
女性専用、軽自動車、優しい指導。
「もう年だから…」と感じていた私の背中を、そっと押してくれるような言葉ばかりが並んでいて、思わずLINEで予約を入れていました。
和泉中央駅で待ち合わせ。
先生は私よりずっと若い方でしたが、物腰がとてもやわらかく、
「今日は練習しようと来てくださっただけで、もう一歩進んでいますよ」
と笑ってくださって、その一言だけで安心しました。
教習車は軽自動車。
運転席に座ると、視界が思ったより広くて、「今の車ってこんなに運転しやすいのね」と驚きました。
久しぶりの運転。
発進の感覚、ウィンカーのタイミング、ブレーキの力加減――
忘れていたことばかりでしたが、先生が一つひとつ落ち着いて教えてくださって、少しずつ感覚が戻ってきました。
特に印象に残っているのは、「行きたい先をしっかり見る」ことの大切さ。
私はずっと、白線やメーターばかりを見て運転していたのですが、
「目の前じゃなくて、少し先を見てみましょう」と言われて視線を変えてみると、不思議と車が安定して進みました。
「反応が遅れてしまって…」と不安そうに言うと、
「それは“慎重さ”でもあります。無理に早く動こうとしなくて大丈夫です」と言ってくださって。
若い先生から、そんなふうに言ってもらえたことが、とても励みになりました。
レッスンの帰り道、娘に「運転の練習、行ってきたわ」と連絡すると、
電話の向こうで「えっ!?」と驚いたあと、「すごい、ありがとう」と涙ぐんでいました。
孫のお迎えは、すぐにできるようにはならないかもしれません。
でも、「やってみようと思えた自分」を少しだけ誇らしく思えた日になりました。
年齢を理由に諦めかけていたけれど、
“もう年だから”ではなく、“今だからこそ”
そんなふうに前を向けたのは、このレッスンのおかげです。
パンダドライビングレッスンに出会えて、本当に良かったです。
(60代・元教員/和泉中央プラン)